2010年12月30日
2010年をふりかえって。
今年は高原書店が2001年にpopビルから今の場所に移転して10年、ということで7月には「移転10周年記念イベント」を行いました。
「町田ゆかりの作家作品の朗読」は大好評でした。表現力豊かな役者さんたちによる素晴らしい作品の朗読は高原書店の財産の一つになりました。
また、「電子書籍元年」といわれた今年、電子書籍スペシャルがテレビや新聞、出版業界、古書業界でも取り上げられました。今後の大きな課題です。
そして・・・今年もまた忙しい仕事の合間にいろんなお芝居を観ました。
今年一番心に残ったお芝居は、古代の「トロイア戦争」を描く芝居2本といえます。まず、9月に観たのがトロイア戦争を描くホメロスの叙事詩「イリアス」・・内野聖陽主演、栗山民也演出、生演奏の音楽。太古の語りの力を生かした役者陣の演技がすばらしく迫力ありました。
ポンペイ壁画を想像させる赤い壁をバックに、神々と人々が入り乱れる戦闘が描き出される。物語のクライマックスはギリシャの英雄アキレウス(内野聖陽)とトロイアの王子ヘクトル(池内博之)の激しい死闘である。が・・芝居の大半は叙事詩らしく朗唱が取り入れられている。バイオリンの生演奏の中で淡々とそして激しくすすめられる。
素晴らしい演出だった。そして中でも感動的なシーンがヘクトルの死体を引き取りにいく老王プリアモス(平幹二朗)の場面である。悲しみにうちひしがれた父親役の平幹二朗の演技が素晴らしく、迫力ありスケールが大きくこころ打たれた。
「戦争で子どもを奪われたすべての親たちの悲しみを背負うように立ちたい」という平さんの言葉そのものの姿だった。
「語り」の力は演劇の原点である。今年高原書店のイベントで役者さんたちに演ってもらった「大人のための朗読」でも強く感じたことである。
「イリアス」は命ある言葉として語り継がれてきた。命ある言葉はそこにある肉体(つまり役者)が伝えることにより魂にきざまれる。
「イリアス」はそうやって親しまれ伝えられてきたのではないだろうか。
・・・脚本の木内さんの言葉がこころに残る。
そしてもう1本、やはりトロイア戦争を描く「トロイアの女たち」
文学座アトリエ60周年記念公演の一つ。敗戦によってギリシャ軍の奴隷にされる女性たちの悲劇を描いた作品である。
まずアトリエに入って観客席の中央におかれた血の色をした「真っ赤な舞台」ユニークで強烈だった。王妃へカベを演じる倉野章子さんはじめ女優陣がとても自然な演技の中にも緊迫感が伝わってくる。戦争の原因となったヘレネがしたたかに生き残ることを暗示させる終わり方は面白かった。
どちらの芝居もこの戦いを「今もずっと続いている。」という、「イリアス」のプロローグが鋭い問いかけとなっている。
ヘクトルとアキレウスが無常と鎮魂の思いで手を取り合い休戦をもたらす。なのに・・
なぜ戦争をやめられなかったのか・・?現代にも重なる鋭い問いかけである。