2010年7月10日

ノダ・マップ「ザ・キャラクター」

野田秀樹作・演出・出演の新作「ザ・キャラクター」を観てきた。スケールの大きな素晴らしい作品であった。2時間15分ぐいぐい引き込まれ濃い時間だった。

物語は、町の小さな書道教室に繰り広げられる人間模様・・ギリシャ神話の神々の姿へと変容していき、そこに現れるギリシャ神話の世界が・・私たちの良く知っているあの物語へとつながっていく。
その物語のモチーフとはオウム真理教事件である。

いろんな人々が集まり修行している書道教室に行方知れずの弟を捜すマドロミ(宮沢りえ)がやってくる。同じくいなくなった息子を捜すおばちゃん(私が観た時は高橋恵子)もやってくる。書道教室の家元(古田新太)に歓迎され住み込んだマドロミは、次々とこの教室(集団)のおそろしい実態を知ることになる。
家元がギリシャ神話をもとに造り出す物語に次第に取り込まれ行動し始める弟子たち。
・・・ゆがんだカリスマ性を持つ家元や書道教室の人たちには「哲学」や「思想」がない。
宗教や芸術でも新しい運動がおこる時、思想や哲学がないとどんどん暴走し行きつく先には恐ろしい光景が広がってくるのである。

信じるということはすごいエネルギーであるが・・暴走したり恐怖での統制などは集団の狂気にはしってしまう。人間の奥底に潜む欲望、狂気、価値観のちがいを認めない・・など不気味でこわい現実味がある。
また、この芝居では漢字から広がるイメージ、言葉から広がるイメージ・・とあらゆるものがいろんな意味を持ち野田秀樹の「言葉あそび」「漢字の持つ意味」など本当に素晴らしく楽しい。タイトルの「ザ・キャラクター」にも、人格、個性、文字、役柄・・などいろんな意味がある。

役者陣も古田新太、宮沢りえ、橋爪功、などの実力派・・オーディションを勝ち抜いた若手俳優陣・・30人を超えるアンサンブルの動きも迫力あって素晴らしかった。
書道教室の生徒、ギリシャ神話の化身、街ゆく人々など・・次々に姿を変えていくアンサンブルの人たちの活躍も素晴らしかった。

今回モチーフになったこの事件はまだ解決されていないし、忘れてはいけないことであり、目をそむけてはいけない物語であり、今みるべき物語であったと思う。

またこの作品には野田秀樹もパンフに書いているように、・・文化には全くちがった一面があり、日本で育ち、そこで話されている言葉を時間をかけて知っている者、つまりその土地の文化が体にしみ込んでいる者にしかわからないものがある。・・・けれども表現としては世界に開かれている。

・・・・本当にそのとおりだと思う。夢の遊眠社時代からのファンとしては密度の濃さ、スケールの大きさとして抜群だと思う。

高原陽子

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