2009年8月11日

こまつ座「兄おとうと」

大正デモクラシーを主導した政治学者、吉野作造の生涯を描いた井上ひさしさんの評伝劇「兄おとうと」。
2003年が初演、そして2006年、今回は3回目の上演であり、わたしが観るのは2回目である。
タイトルのように吉野作造と10歳年下の弟、信次をめぐるお話です。
「政治は国民の幸せを第一に考えるものだ。」と唱える兄作造、、高級官僚の弟は「国家あってこその国民だ。」と言う。正反対の考えで二人はケンカばかりしている。なのに・・二人の兄弟愛が伝わってくるのである。
また、面白いことに二人の奥さんも姉妹同士であり、難しい天下国家の話と家族兄弟の話が、うまくからんでとても面白く観ることができました。
井上ひさしさんの作品は、いつも難しいものをわかりやすく、おもしろく、深刻な話も楽しく、明るく描いてくれます。
明治から昭和初期までのお話なのに、こわいくらい今の時代にあてはまります。
弟の信次が「いまこそ霞が関にすべての官庁を集中させる。」と言う。それに対して兄作造は「その前にするべきことがある。不況下で生活苦にあえぐ庶民の救済だ・・・・」と断言します。
今の高級官僚や政治家の人たちは何を考えているのでしょうか?
ほんとに、私たち庶民や中小企業のことを考えてくれているのでしょうか・・?

最後の場面にこんな唄がでてきます。「三度のごはん きちんと食べて 火の用心 元気で生きよう きっとね。」
この唄の文句にすべてまとまっているんだよね。という作造のセリフが重くこころに響きます。
「天皇主権」であったあの時代に「国民主権」を唱えた吉野作造博士は、ほんとに勇気ある素晴らしい人だったのだ・・と改めて思いました。

初演からの作造役の辻萬長さん、弟信次役の大鷹明良さん、他、剣幸さん、文学座の高橋礼恵さん・・・宮本裕子さんと芸達者がそろい・・ピアノの生演奏とともに・・楽しく面白いお芝居でした。

政治不信のこの時代にぴったりのお芝居・・今の政治家たちは吉野作造さんのことをもう一度考えてほしい・・とも思いました。。

高原陽子

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