2009年5月11日

イヨネスコの「犀」

「犀」という作品は、「ゴドーを待ちながら」のベケットとともに不条理演劇の代表作家として有名なウジェーヌ・イヨネスコの代表作です。
・・・この作品は、今までにいろんな劇団が演じています。坂手洋二さんの燐光群、木村光一さんの地人会など・・今回わたしが観たのは文学座のアトリエ公演でした。高原書店の3月のお話会に来て下さった鈴木弘秋さんも出演していました。
・・・主人公、大場泰正さん演じるベランジェは友人のジャンとカフェのテラスにいた。その時、町を駆け抜けて行く1頭の犀を目撃します。
この町には動物園もないし、犀なんか住んでいるわけがないと驚くベランジェ、、町の人々はそんなことあるわけがない、と信じない。
さて次の日、ベランジェは勤めに出ると事務所では、昨日犀をみたという女秘書の話をめぐり議論が沸騰していた。
・・そして、町のあちこちで人々は犀に変身しはじめる。ベランジェの親友ジャンもベランジェの目の前で肌が緑色に変色し、犀になってゆく。
町にはどんどん犀の姿があふれてゆき、人間はみるみる少数派になってしまう。そして・・たった一人取り残されたベランジェ・・。
彼は叫ぶ!「僕は世界と闘う!僕は最後の人間だ!そして最後まで人間でいる。決して降伏しないぞ!!」

人間が次々と犀に変身してしまう・・というなんという奇抜な発想、そしてなんとも恐怖でグロテスクである。
が・・お芝居として観ていると面白くて大笑いしながら、楽しく最後までみてしまう。
イヨネスコが明言しているように、犀とはファシズムの象徴で、その変身は世の中の流れに従うことを意味し主人公は同僚が次々と犀に変身していくさまに、「従う」か「闘う」かをめぐってもがき苦しむのです。
不条理劇というと、わかりにくい、難しい、というイメージがしますが・・この作品はとてもわかりやすくて面白く、またいろいろなことを考えさせられました。

社会が一方向に流れる時代への批判というブラックユーモアで、現代にも通じるところもたくさんあり、遊びこころもいっぱいの作品でほんとに面白く、楽しく、そして「数におしつぶされない個人の大切さ」も痛感しました。
また、文学座の俳優陣の層の厚さ、演技力の確かさにも感服したお芝居でした。

高原陽子

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