2009年3月8日

シス・カンパニー公演「夜の来訪者」

文句なしに面白かった!!地味な会話劇だけれど・・ぐいぐい引き込まれて最後まで目がはなせなかった。

・・・舞台は一代で財をなした工場主の邸宅。娘の婚約で華やぐ一家団欒の場に一人の警官が現れる。
この警官はある小さな事件を家族に話す。誰一人何の関わりがあるのか分からない。・・・やがて・・家族の心に波紋を描き・・大きな疑惑が広がっていく。・・・・

原作はイギリスの作家、J.B.プリーストリー。イギリス中部の工業都市に住む裕福な工場主バーリング家が舞台になっている。家族構成、ストーリー、警官の来訪、背筋が凍るようなエンデイングも原作のままである。
この作品を日本に紹介したのは、内村直也氏、岸田國士の弟子でラジオドラマの脚本や少女小説などで活躍した人である。「舞台を日本に移した翻訳」という形で成立する。
初演は1951年三越劇場での俳優座の公演で、警官役の東野英冶郎がその演技を絶賛されたそうである。

今回は俳優、段田安則さんの初演出で、彼は警官役でも出演する。
舞台は1950年代の日本。戦争の深い傷を経済発展で乗り越えようとしていた時代である。
工場主秋吉家の家族4人と長女の婚約者、そしてこの一家に侵入しかれらの「無意識の罪」をあばく警官、橋詰。
戯曲自体がものすごく面白い上に、役者陣がすごい!!実力派揃いである!
秋吉家の主人、高橋克実さん、秋吉夫人渡辺えりさん、娘、坂井真紀、その婚約者岡本健一、息子八嶋智人、そして女中役が梅沢昌代さん・・そして、段田さんが警官である。。

ほとんどが会話で成り立つ高度な心理サスペンス!この役者陣だからこそ、面白さがぐんぐん伝わってきて引き込まれます。
この作品は、最後まで謎解きの連続でサスペンスとしての魅力と面白さがつらぬいていますが・・人間らしさ、人間の弱さ、人間の愚かさ・・がしっかりと描かれています。
骨太な素晴らしい戯曲は、時代を超えて、どの時代にもあてはまる「弱者を切り捨てようとする風潮や価値観の違い」をリアルに伝えてくれます。

この作品が日本でも何度も上演されているのは・・時代の矛盾を映し出し人間の愚かさや業を明るみに引き出し・・観ているわたしたちに共感を与えるからだと思います。
自分の何気ない言動が生み出した予想外の反応に驚いたり、「無意識にとった言動であってもしらないうちにだれもが他人を傷つけてしまうことはあり得る」・・・といったことは、だれもが少なからず覚えのあることだと思いました。
「言葉の持つ力」という時代をこえた時代に左右されないものが中心になっているところがすごく面白いと思います。

格差社会といわれたり、派遣切りなど深刻な問題となっている現代の日本への痛烈な風刺ともいえるいろいろ考えさせられる作品でした。

高原陽子

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