2007年12月12日

ビューテイ・クイーン・オブ・リナーン

むき出しの感情がぶつかり合う母娘を演ずるのが、白石加代子、大竹しのぶ・・というだけで、どきどきするような舞台である。
しかもこの作品、今世界でもっとも注目される劇作家、マーテイン・マクドナーの作、である。
アイルランド人を両親に持つこの作家の作品は、何年か前、アイルランドを舞台にしたアラン諸島3部作のひとつ「夢の島イニシュマーン」を文学座公演で観た時・・主演の今井朋彦さんの素晴らしさとともに、この人の作品の強烈な印象とすごい感動が今も新鮮に残っている。

北アイルランドの片田舎、リナーンに暮らす病身の母といきおくれの娘・・・自分勝手で支配欲の強い母マグは、病身であることを理由に何ひとつ自分ではせず、いつもロッキングチェアーにすわったまま娘を怒鳴りつけ、すべての世話をさせている。
しかし、娘のモーリーンも負けてはいない。母の頼みをわざと無視したり、動けない母にいやがらせをしたり・・毎日バトルを繰り返している。・・ある日、娘にパーテイの招待状が届けられる。しかし、娘に出て行ってしまわれると困る母は、あの手この手で邪魔をする。
娘モーリーンは、老母の介護をのがれた他の姉妹とは対照的に・・一度はイングランドへ出稼ぎに行ったものの、深い心の傷を負ってふるさとに帰り、結婚のチャンスもないまま、母の世話に明け暮れているのである。
かつて「リナーンで一番の美女」といわれた娘が、身勝手な母の犠牲になっているといえるかもしれない!

壮絶な憎悪のはてに・・ショッキングな結末!!
最後一人になったモーリーンに、「あんた、お母さんそっくりになってるよ!」と隣の少年に言われるのである。

辺境アイルランド、荒涼たる自然・・・貧しく、暗く、寒い・・アイルランドの農村社会・・
くりひろげられる母娘のぶつかりあい・・・・これもまた、強烈な心に残る舞台だった。

観終わったあと、なんとも重く、やるせない悲しみのような感情がひろがってくる。
母と娘・・ってこうまでもぶつかり合う存在なのか・・と思ってしまう。
愛情があるからこそ・・ここまでの葛藤とぶつかり合いがあるのだと思う。

切なく残酷な結末!!でも、観るものをひきつける素晴らしい作品であった。

高原陽子

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