2007年5月24日
「ナイロン100℃」と岸田戯曲
ナイロン100℃のケラさんが、岸田國士の戯曲7本をオムニバスで構成・演出の舞台を観た。
一見、意外に思えるこの組み合わせ、それがなかなかおもしろく最高に素晴らしかった。
ケラさんが取り上げたのは岸田國士の中短篇「犬は鎖につなぐべからず」をたて軸に「隣の花」「驟雨」「ここに弟あり」「屋上庭園」「ぶらんこ」「紙風船」の7本。
岸田國士はいわずとしれた日本の劇作家の登竜門とされる「岸田國士戯曲賞」のその人。
つい最近亡くなられた女優岸田今日子さんの父であり、日本で最初に近代的なセリフ劇を書いた人である。
大正末期から昭和初期に書かれた本が今もなお私たちに共感をあたえ、モダンで、クールでおしゃれだ。
岸田作品は、さして大きな事件もおこらず、日常の何気ない、夫婦や、家族や、隣人の会話をシニカルでモダンに描いている。
日常生活にある愛や憎しみ、嫉妬、不満、悲しみ、喜びがいっぱいつまった舞台は70年以上たった今も、親しみやすく、みずみずしく心にしみてくる。
70年前に書かれた本とは思えないくらいのモダンでユーモアにあふれ、男と女のドラマはスリリングで、官能的でさえある。
岸田作品は、文学座や民芸で何度か観たことはあるが、今回のケラさんの演出は新劇のリアリズムとは少し違った演出で素晴らしい。ポップで、モダンな感覚だ。しかも、原作のもつ言葉の美しさや、端正なふんいきは忠実に残していて魅力的だ。
美しい和服の衣裳や、レトロな舞台美術、モダンな音楽、そして時おり、とぼけた演出とほんとうに楽しく、すばらしい3時間の舞台だった。
いつものナイロンの芝居のように爆笑ではないけれど、クスクス、ニヤニヤ笑えるシーンはいっぱいある。
ほんとに、ここ最近では、一番心に残る芝居だった。